人工衛星Clark sat-1「AMBITIOUS号」が完成。この夏、生徒たちの夢を乗せて宇宙へ

宇宙への夢・挑戦・達成を目指すクラーク記念国際高等学校の「宇宙教育プロジェクト」が大きな節目を迎えました。ついに、高校生たちが主体となって開発を進めてきた人工衛星「Clark sat-1」が完成。2023年3月17日に完成披露記者会見が行われました。

高校生たちの手で人工衛星を開発・運用し、宇宙を探究する−−。世界でもめずらしい挑戦が始まって約1年半。2023年3月、人工衛星Clark sat-1が完成しました。

Clark sat-1は1Uサイズと呼ばれる10cm角サイズで、重さは0.94kg。五面に太陽電池が貼られており、テグスでアンテナが展開する仕組みです。高性能カメラを搭載し、宇宙空間から地球を撮影することを目指します。また、環境問題をテーマとした音声データやイラストデータを地球へ送る通信機能も。衛星の愛称は、全国のクラーク生から募集して「AMBITIOUS号」に決まりました。

記者会見に登壇した3年生の本村百絵さん、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙学専攻の中須賀真一教授、1年生の和島優仁さん、宇宙飛行士の山崎直子さん、2年生の山根充輝さん、Space BD株式会社の永崎将利社長、3年生の甘露寺さくらさん(写真左から)

「体は小さいが、全国のクラーク生の夢を乗せて宇宙に挑戦してほしいという思いが込められています」と吉田洋一校長は話します。

今後は2023年夏にJAXAへ引き渡し、秋に国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げる予定。冬にはISSきぼう実験棟から衛星を放出し、宇宙空間での運用を目指します。

3月に完成したばかりの超小型人工衛星Clark sat-1。愛称は全国のクラーク生から募集して「AMBITIOUS号」に決まりました。

人工衛星は打ち上げるだけではなく、宇宙空間でどういったミッションを達成できるかが重要。生徒たちはClark sat-1アンビシャス号のミッションについて長い時間をかけて協議を重ね、次の4段階を設定しました。

  • ミニマムサクセス ISSからの放出成功
  • フルサクセス 超小型衛星との通信成功
  • エクストラサクセス 1)衛星に搭載するカメラで地球環境を撮影

             2)搭載した音声やイラストデータを衛星から受信

 クラークネクスト東京のキャンパスには管制局を設置。データの送受信や制御は全国のキャンパスで可能で、アマチュア無線従事者免許を取得した生徒たちがミッションの実現に取り組みます。

会見で司会を務めた1年生の和島優仁さんは、衛星打ち上げ後に取り組みたいこととして、次のように話しました。

「宇宙から見た地球の景色を撮影し、その写真を使って多くの人に地球の現状を伝えたい。現在、私たちは森林伐採、砂漠化、海面上昇など数多くの環境問題に直面しており、状況は日々、悪化の一途をたどっています。この実情を知っていたとしても、少し他人事のように思っているという人もいます。人工衛星から撮った、今のリアルな状況が分かる写真を用いて、私たちが抱えている環境問題の深刻さ、重大さをより多くの人々に知ってもらい、環境問題の解決に貢献したいです」(和島さん)

人工衛星完成披露記者会見の様子はYOUTUBEライブで全国のキャンパスに配信されました。

宇宙教育プロジェクトは、クラーク記念国際高等学校開校30周年記念事業の一環として、東京大学大学院工学研究科、Space BD株式会社の協力のもと昨年スタートしました。高校生による人工衛星の開発・運営に挑戦するなど、宇宙について主体的な学びを深めることで、未来の社会で活躍するための課題解決力を培っています。

 活動の中心となるのは、全国各地のキャンパスに在籍する宇宙に関心のある生徒たちが参加する宇宙探究部という部活動。これまで約1年半にわたり、宇宙探究部は東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授による指導のもと、特別講義の受講や演習に参加しながら衛星の開発を進めてきました。

今回の会見で中須賀教授は「衛星開発ってどうやって進んでいくんだろうか。ミッションはどうやって決めていくのか。運用はどうするのか。さまざまなことを講義してきました。大学生レベルの難しい宿題も出して、生徒さんはがんばって解いてくれた。Can Sat(ジュース缶サイズの模擬人工衛星を作って与えられたミッションの達成に挑戦する実験)は問題解決の非常にいい鍛錬になったし、東京大学の屋上から国際宇宙ステーションに向けて電波を打ち上げて届くかを試す実験もやりました」とこれまでの活動を振り返りました。そのうえで、次のようにクラーク生に向けてメッセージを送りました。

「こういった講義や開発成果をこれからの人生や生活にどう活かしていくかは生徒さんたちにかかっています。これをやってみて宇宙っておもしろいな、宇宙開発やりたいなと思った生徒さんはぜひ東京大学に来てください。さらに鍛えてあげます。それから宇宙ビジネスっておもしろいなと思うような生徒さんが出てくるかもしれない。問題解決って大変だけど解けたらうれしいなと思う生徒さん、いろんな社会問題がたくさんあります。そんな問題を解決してみようと思う生徒さんがいてもすばらしい。いずれにしても、ここで学んだことを今後の人生や進路の選択に最大限に活かしてもらいたい」(中須賀教授)

 超小型衛星のパイオニアである中須賀教授から直接受けた熱血指導。なかでも、「トライアンドエラーの考え方が心に残っている」と2年生の山根充輝さんは話します。

「特にCan Sat実験がおもしろかった。設定された時間で模擬人工衛星を着地させられるか。どうやったら風船が割れるか。その時に中須賀教授から『何回もやり直せば間違いではない』というトライアンドエラーの考え方を教わりました。自分はロボット工学を専攻しているのでそこにも活かしたい。宇宙探究部の活動で問題解決の連続が衛星開発であり、宇宙開発でもあると学びました。これからClark sat-1の運用に向けてさらに勉強していきたいと思います」(山根さん)

生徒たちにエールを送る宇宙飛行士の山崎直子さん。写真左が山根充輝さん、右が東京大学大学院工学系研究科航空宇宙学専攻の中須賀真一教授。

会見には、宇宙教育プロジェクトのアンバサダーで宇宙飛行士の山崎直子さん、探究学習プログラムの開発に携わった宇宙ベンチャーのSpace BD社の永崎将利社長も登壇。山崎さんは「自分が高校生の時には高校生が人工衛星を作るなんて思いもよらなかった。うらやましいなぁ。世界的にも本当にアンビシャスな成果」と生徒たちを讃え、エールを送りました。 「宇宙探究部の皆さんは、たくさんの学びがあったと思います。地道なことの積み重ねが大きな夢に到達するための道。宇宙へ挑戦できたのは夢・挑戦・達成を重んじるクラーク記念国際高等学校の風土があるから。これからも宇宙に限らず、さまざまな分野で挑戦していく人が増えるとうれしいです」(山崎さん)

永崎社長は宇宙教育プロジェクトを「先駆者である」「本物に触れた」「実践的だった」という3つのキーワードで表現しました。

「高校生が主体者として衛星を開発して打ち上げるのは日本では初めての試み。このプロジェクトが始まった頃よりも今、宇宙開発は盛り上がっていますが、皆さんは先駆者にしか見られないものを経験できました。そして、本物に触れた。超小型人工衛星の第一人者である中須賀教授から全面的な指導を受け、山崎直子さんからも学びました。この価値を今は実感できないかもしれないけど、すごく貴重だったと実感できる時が来るはずです。最後に実践的だったこと。センサーワークショップや安全審査プロセスなどを噛み砕いて学んでいきました。これらのすばらしい経験はこらからの人生で必ず活かせます」(永崎社長)

報道陣の取材に応じる宇宙探究部国際広報チームの甘露寺さくらさんと本村百絵さん

約1年半に及ぶこれまでの活動を取材し、発信してきたのが宇宙探究部の国際広報チーム。会見で司会を担当した3年生の本村百絵さんは、宇宙探究部の活動レポートや宇宙関連ビジネスや研究のフロントランナーたちへのインタビューを日英バイリンガルで発信した国際広報誌『SPARK』の編集長を務めた経験について語りました。

「私は国際広報チームで、国際広報誌の発行に携わり数々の経験をしました。編集者の方とデザイナー事務所を訪れ打ち合わせをしたり、遠く離れたキャンパスの生徒達とオンライン上で意見を交わし試行錯誤したり。悩むこともありましたが、その経験が自身の財産になったと感じています。人工衛星の開発にも多くの専門家やプロの方の支えがあって今日この日が迎えられましたし、3年間という短い高校生活でこれからの人生の財産となるような活動ができたことに感謝して、これからも宇宙探究部がより発展していくことを願っています」(本村さん)

 同じく国際広報チームの一員で、3年生の甘露寺さくらさんも会見に登壇。日本語と英語でこれまでの宇宙探究部の活動を紹介しました。

「全国から集まったキャンパスの部員でCan Satに挑戦したり、さまざまな宇宙関連企業のオンライン特別講義を受けたり、『SPARK』という広報誌を発刊したりと精力的に活動してきました。宇宙探究部では、発足からわずか1年でこれほどのことに取り組んできました。私は今年卒業しましたが、後輩たちのこれからの活躍を楽しみにしています」(甘露寺さん)

会見の最後には、東京キャンパスのパフォーマンスコースに在籍する生徒たちがラッパーの普平太さんと一緒に宇宙探究部への応援ソング「Satellite. AMBITIOUS」を披露。会場を盛り上げました。

「Satellite. AMBITIOUS」を歌い、踊るパフォーマンスコースの生徒たち。この日のために練習を重ねました

中須賀教授は、東京大学の学生たちと世界で初めて10㎝四方の超小型衛星を打ち上げた日のことを回想しながら、次のように語ります。

「東京上空にさしかかった時、みんなで衛星からのビーコンを待っていた。ガーッというノイズの中からピーピピ、ピーピピピーという音を聞いた時、僕らは本当にうれしかった。泣いている学生もいた。打ち上げの時にはそういった感動をぜひクラークの皆さんにも味わってほしい。それが将来に向けて大きな学びであり、励みであり、力になると思います」

今年夏、生徒たちの夢を乗せてClark sat-1 Ambitious Goは宇宙へ飛び立ちます。その後、宇宙探究部だけでなくすべてのクラーク生を対象に、地球と宇宙を題材にした探究学習がスタート。クラークの挑戦は続きます。

会見会場には全国のキャンパスから宇宙探究部の生徒たちが集まり、自分たちの学びがひとつの形になったことを喜びました

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